東京の観光スポットである浅草で、商店街にある一角の店舗に対して台東区が立ち退きを求めていることが話題になっています。
その商店街は伝法院通りの一角で、公道上に出店をしていて、道路の管理者は台東区とのことでした。
こうなると台東区が許可をしない限り違法出店になってしまいます。
すでに台東区は10回程度通告をし、立ち退きを要求しています。
立ち退きの要求をしているということは台東区は道路使用(道路占用)を許可していないということです。
そのためこれを是正しようというのが立ち退き要求の概要です。
行政書士の立場から言うと、結論から言えば区からの立ち退きの要求は仕方のないことで、
遅かれ早かれいつかは立ち退き要求が来るものだという判断になります。
しかし、浅草は現状日本を代表する観光スポットとして台東区の経済に大きく貢献しているのはその通りでしょう。
それであればある程度温情的な判断をしてもいいのではないかとの意見もありますので、これが問題となっているのです。
Contents
浅草商店街への立ち退き要求ってどうよ
公道での出店は違法なの?
今回の問題となっている舞台は浅草、浅草寺の伝法院通りと呼ばれる一角です。
ここの出店の一部が公道上であることが発端となり、今回の立ち退き要求がされたということになります。
↑を見てお分かりの通り浅草寺の直下にあって、いかにも風情のあるたたずまいです。
外国人観光客からすれば最高のコンテンツですし、浅草の経済発展にも大きく貢献ているはずです。
ということでれば多少は温情的な行政判断をしてくれよと思いたくなるのが人情でしょう。
そのため東京新聞での記事によると、商店街存続の署名活動はすでに7000筆を超え、これが台東区に提出をされるというところまで問題は大きくなっているのです。
心情的には商店街の存続は全く理解できますし、できれば風情ある商店街がこのまま残ってほしいのはその通りです。
しかし、該当する商店街以外の関係者の心情を検討するとこれが一筋縄ではいきません。
というのも公道に許可なく出店しているということは、道路使用にかかる費用を負担していないことになります。
こうなると出店におけるこれらの費用が浮くことになります。
ほかの商店街でこの費用を出費して出店をしている人にすればいい気がするわけがありません。
では、公道での出店は違法なのか?ここを検討してみましょう。
当たり前ですが公道はみんなのものです。税金によってつくられて、保存をされています。
道路交通法には77条に
(道路の使用の許可)
第七十七条 次の各号のいずれかに該当する者は、それぞれ当該各号に掲げる行為について当該行為に係る場所を管轄する警察署長(以下この節において「所轄警察署長」という。)の許可(当該行為に係る場所が同一の公安委員会の管理に属する二以上の警察署長の管轄にわたるときは、そのいずれかの所轄警察署長の許可。以下この節において同じ。)を受けなければならない。
一 道路において工事若しくは作業をしようとする者又は当該工事若しくは作業の請負人
二 道路に石碑、銅像、広告板、アーチその他これらに類する工作物を設けようとする者
三 場所を移動しないで、道路に露店、屋台店その他これらに類する店を出そうとする者
四 前各号に掲げるもののほか、道路において祭礼行事をし、又はロケーシヨンをする等一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為で、公安委員会が、その土地の道路又は交通の状況により、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたものをしようとする者
との記載があります。小難しいですよね。
このうちの77条の3が今回の商店街の出店に該当します。
要するに公道で場所を移動しないで露店を出店する場合は所轄の警察署長に許可を取らないといけないということです。
ただしこれだけでは足りません。道路を使用する以前に継続して道路上に出店するため、道路使用許可に加えて道路占用許可も必要になります。
道路占用許可とは道路法に定められています。
第三十二条 道路に次の各号のいずれかに掲げる工作物、物件又は施設を設け、継続して道路を使用しようとする場合においては、道路管理者の許可を受けなければならない。
一 電柱、電線、変圧塔、郵便差出箱、公衆電話所、広告塔その他これらに類する工作物
二 水管、下水道管、ガス管その他これらに類する物件
三 鉄道、軌道、自動運行補助施設その他これらに類する施設
四 歩廊、雪よけその他これらに類する施設
五 地下街、地下室、通路、浄化槽その他これらに類する施設
六 露店、商品置場その他これらに類する施設
七 前各号に掲げるもののほか、道路の構造又は交通に支障を及ぼすおそれのある工作物、物件又は施設で政令で定めるもの
このうち、32条の6ということですね。
これらの許可を取らなければ出店をすることができないのですが、この許可を取らずに出店を続けていた、というものです。
「なぜ今なのか」
僕は立場上、この手の行政指導の現場はよく見てきました。
分かりやすい例ですと、例えば街場のスナックが長年営業をしてきて、それまでは警察署から何の指導もなかったのに
「お客とカラオケのデュエットをするのは接待行為だから許可を取ってください」
といきなり言われたとします。
するとスナックのママさんは決まって
「今までは何も言われなかったのになぜ今になって言われたのか」
と口をこぼすことになります。
今回の浅草商店街のひとの気持ちはまさにこの気持ちでしょう。
ネットニュースでもこの手の声はどこも掲載しています。
ただし一方で
「なんだ、じゃあこれまで許可取ってこなかったのが悪いじゃん」
という気にもなるのが一般人の素直な気持ちでしょう。
もちろん街場のスナックと浅草の商店街では条件は違いますし、
外国人旅行者にすれば絶好のコンテンツですのでどれだけ観光客誘致に貢献したかはわかりません。
ただし、すでに台東区は10回程度通告しているところを見ると
「なぜ今なのか」
はやや無理がある理屈かもしれません。
最終的には行政代執行の可能性も?
ではこのまま商店街が出店を続けたらどうなるでしょうか?
この場合は最終的には行政代執行の対象になる可能性があるということになります。
行政代執行は、法律などによる義務を果たさない人がいるとき、行政が義務を果たさない人に代わって義務を果たすことです。
これは行政代執行法2条に定められています。
つまり立ち退きを放置されていれば、これを行政側が強制的に店舗を移動したり、あるいは店舗を解体したりなどの措置をすることになるのです。
ただし、いくら法律に違反しているからと言ってこれらの行為を行政側がするのはあまりにも人情味がありません。
また、住民の言い分もあるだろうということで要件が二つあります。
①他の手段によつてその履行を確保することが困難であり
②その不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるとき
この二つの要件を満たした場合は適切な手続きを踏まえたうえで最悪な場合店舗の解体などの措置が取られる可能性があるということにです。
この要件のうち、①の要件は立ち退いてもらわないと公道は確保できませんので要件を満たしています。
そのため②の要件が今後焦点になってくるということになります。
商店街の違法出店は公益に反するか?
では、このうちの②を検討してみましょう。
②その不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるとき
まず、問題の店舗は浅草の景観に大きく貢献していますが、そもそもが違法出店のためこの理屈は通用しづらいです。
またコンプライアンスが厳しくなる現代社会では、不法行為を放置しておくことがそもそも公益に反するのはその通りでしょう。
さらに浅草の影響力を考えると、このまま違法出店を放置することでほかの違法出店のお店にすれば「あそこもやっているんだから」という気にもさせてしまいます。
さらに、適切な許可を取って出店している人にすれば不公平感を持ってしまい、結果として行政の信用を落とすことになります。
このまま放置をすることで公道が整備されることで得られるだろう利益を失うこともあるでしょう。
すでに行政指導は10回程度行われていることを検討すると、遅かれ早かれ②の要件を満たすのは時間の問題かもしれません。
自主撤退が既定路線かも・・・
近年ですと大阪市の串カツ店の問題が思い起こされます。
24年間続けてきた串カツ店でしたが、これまでは道路占用許可を受けて営業していたところ、道路の拡張工事を行うためこの許可が受けられなくなってしまったのです。
こうなると違法出店となってしまいますので、行政側は立ち退きの指導をすることになります。
そのお店も大阪の風情としては大変に多くの人を魅了していましたし、お店そのものもたくさんのお客に愛されていました。
しかし行政代執行を検討していることがわかると、さすがにお店側はプレッシャーに耐えきれなくなり、自主撤退をしたという経緯があります。
心情としては浅草商店街の景色は美しいし、残ってもらいたいという気持ちがあるのですが、ここまで検討すると厳しい状況であることには変わりはないかもしれません。
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